夢を追いながらアイドルを追いかけるのを否定された話
アイドルは私に何もしてくれない。
養ってくれる訳でもなく、恋人の様に満たされる愛をあたえてくれる訳でもない。
電話が鳴った。
手帳型のスマホケースは画面が見えない。
それが悪い一報か、いい一報か、わからない。
ケースを開けて画面を見る。
発信者は手越担の友人である。
私はホッとした、そういえば、悪い一報は、つい昨日あったばかりだから、ある訳ない。
『NEWSのツアーの!!当落!始まったよ!!!』
それは最高に良い一報だ、というか。
私に電話を掛けてる場合じゃないのでは。
手越担「どう?最近仕事。」
私「上司がちょっと苦手かな」
増田担「人間関係大事だよね〜」
衝撃的な電話から2時間後、私はご飯屋さんに居た、出来たばかりの店、女子会にはぴったりの気取らない雰囲気。
いつも通り、仕事の悩みを話す。
女とはつくづく器用なものだ。
何故なら、3人とも話しながら、片手では何百回目のラブコールを進行中である。
200回目。声がガサガサのNTTのお姉さんしか出てくれない、何故かチャイムの様な音も聞こえる。何故こんな怖い思いをしてるのか。
300回、『ナビダイヤル、ブッ』
アーーーーーーーー!!!!!????
心の中で叫び、通話終了ボタンを押してしまった憎い人差し指を握り締めながら泥の様に落胆してる私の隣で増田担が慌てている。
どうやら、繋がったらしい、が、様子が変だ。
私「どうしたの」
増田担「少年隊押しちゃっ…」
手越担「落ち着いて!!落ち着いて!!(小声)」
私「深呼吸してとりあえず、大丈夫、ゆっくり行こう、ゆっくり(小声)」
増田担「…わかった、よし、下四桁、」
手越担「○○○○だよ」
増田担「…よし、よし!よし!」
私「行けた?」
増田担「あれ?え、ちょ、ちょっとまって、………切れた……」
私・手越担「切れたか〜〜〜〜!!」
3人で何百回掛けたかわからない、だんだん声ガラガラのお姉さんにも謎の愛情が湧いてきた。というか、3人とも二十歳すぎである、もう少し大人な感じで落ち着いて出来ないのかとも思う事は思う。
子供の頃に思ってた二十歳すぎはもっと、なんか、こう、おとなで、結婚とかしてて、お金もたくさん稼いで親も安心させられて、夢も叶えて…
そういえば、私の苦手な上司は十代で夢を叶えて活躍していた人だ。
もちろん、今もバリバリ現役である、仕事の面でも尊敬している、人間性以外は。
お皿の端っこのパサパサになったパスタが目に移る、時間はどんどん過ぎてゆく、逆算したら、もう間に合わないのではないのだろうか。
昨日の悪い一報が電話口から聞こえてきそうだ。
……わたし、アイドル、追っかけてる場合じゃ
『ナビダイヤルでお繋ぎします。』
!!!!!!!
私「来た!!!!!!!!(小声)」
増田担「1は少年隊だよ!落ち着いて!!(小声)」
手越担「増田担の言葉が重い…」
ファンクラブ区分11、シャープ、ファンクラブ番号、シャープ、下四桁、シャープ
2人と目を合わせる、なんだか既に手越担が落胆と期待の合わさったへんな顔している。
『メモのご用意が出来たら1を』
メモのご用意、ってことは。
1
『チケット3枚、お取りすることが出来ました』
私「!!!!!!???!!」
手越担「!!!!!!???!!」
増田担「!!!!!!???!!」
周りを確認してガッツポーズである、うわ、ほんとに?もう一回!
お姉さんが機械的に同じ事を二回言ってくれる、お姉さん、ありがとう、その言葉が聞きたかったんだ。
NEWSに会えるのだ、名義は手越担である、手越担が連れてってくれる、それに手越担も増田担も自担に会えるのだ。
それを考えると心臓がぎゅうっとなる程幸せである。
ああ、神様、頼むから4月までは車とかパンクしたりしませんように。風邪などひかず、健康でいられますように。
今思うと、どちらも完全にお前次第だよ、神様も気の毒だ。
そのあと3人で当日泊まるホテルを取り、夜中におひらきになった。
幸せな気持ちで家路に着く。
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「運、使っちゃったんじゃないの?」
意味がよくわからなくて、朝一で初めて上司の顔を見た。上司はいつも綺麗に化粧をしている、きちんとしている。
その威圧に耐え切れないように、私の眼鏡がずれた、あ、やばい、眉毛描いてない。
確か、何を話してたのか。
朝出社して、上司に毎月私が会社とは別に個人的に出しているコンクールの結果を聞かれた。
出している事は上司も会社にも許可取り済みである。
私は、例の悪い一報を伝えて、話を逸らそうとしてコンサートの件を言ったのだ。
上司の言葉は止まらない。もともとマシンガントークの人だ。今回も当たり前の様に、人に話を挟む隙を与えない。
「コンサートなんかに運つかっちゃったから、結果がダメだったんじゃないの?そういう所でよそ見するからダメなんだよ、夢があるならがむしゃらにそこだけ見ないと。好きなものにうつつ抜かしてたるんでるんじゃないの?
アイドルは何もしてくれないよ?養ってもくれないし、虚しいだけじゃん。この先ずっとアイドル追っかけてると貴女ひとりきりだよ。友達2人は結婚してるからいいけど、なんかさ、大丈夫?」
ずれた眼鏡を、直す。
ともだちは、そう手越担と増田担は確かに結婚しているのだ。
結婚式にも出て、たくさんの所謂惚気話というものを、私は2人から聞くけれど純粋に面白くて、私は女の幸せなんかツイッターで聞くのとか見るの嫌いだけど、なんの嫌味もなくて、幸せそうで私はそれを見てるのだけでも満足してたから、自分が今、結婚していなくて、彼氏がいないのも後ろめたくない。
強がりに聞こえるけど本当なんだ。
もちろん、アイドルとも結婚しようとなんて思ってない。
結果は、…
よそ見、してたのだろうか。
部屋で未開封のヒカリノシズクを手に取りながら思う。
Touchは我慢できなくて見ちゃったけど、ヒカリノシズクは増田担から、『増田が泣いてる それだけで素晴らしい』と聞いていたからコンクールが終わったあとに、どんな結果であれご褒美に見ようと思ってたのだ。
甘かったのだろうか。
どんな結果であれご褒美って、どんな結果って良い結果じゃなければ意味がないだろうが。
夢を見ながら好きなものがあるのは、やはりいけない事なのか。
夢はがむしゃらに追いかけないと叶わないものなのか、そうだろう。それは確かにそうかもしれない、でも。
NEWSのコンサートに当たったせいで、私の夢が、叶わなかった?
そんなのは…
ヒカリノシズクのパッケージを見る。
これは、加藤シゲアキ原作のドラマの主題歌だ。
加藤君はアイドル活動をきちんとこなしながら執筆活動している。
本を書くのは大変だ、本が出るのは結果である、それまでずっと執筆していても過程が載ったりしなければ中々大変さがわかってもらえない。
仕事のあとに執筆活動して、趣味の釣りも楽しんで、作詞もしている。
加藤くんのポスターを見る度、どんなに頭が回らなくてもまだやれると思う。
ドラマも番宣も全部ダビングした、歌番組だって全て落とした。
お正月は伊野尾ちゃんと絡んでて、うわー!ひとつの画面で2人見れる!!美と可愛さでテレビ壊れる!!なんて思っていた、壊れなかったけれど。
結構前に買ったDVDを入れるケースはもうすぐ埋まってしまう。
そういえば、偶然かもしれないけど、NEWSを見てて思いついた事だってある、確かそれは、1番とはいかなかったけど、初めて大きく結果が載ったのだ。
今回の結果は、その初めて大きく載った時と同じ結果だった。
だから進歩していないという意味で、悪い結果と上司に言ったのだ。
でも、よく考えたらそれは落ちてはいない。
まだ、落ちてはいないのだ。
あの時は驚いて、へこんで、そうかもなんて思ったけどよく考えたほうがいい。
そもそも、あの2人と結婚式に出るまでの仲になったのは、3人とも同じグループが好きだという共通点があったからである、NEWSがいたから大学を卒業しても会って話すようになったのだ。
今はNEWSの事も話すけれど、それ以外の事もたくさん話す、2人とも尊敬できる大切な友達である。
あの上司の言葉は全く逆だ、NEWSを好きでなければ私はひとりきりだったかもしれないのだ。
好きなものがあるのは無駄な事ではない。好きなものがあったほうがむしろ色々プラスだ。
コンサートは運かもしれない、でもコンクールの結果は私の力不足だ。
上司の言葉を気にしたとはいえ、私の力不足を大好きなグループのせいにするなんて、そんな事よくしようとしてたな、30分前のわたし。
目を覚ませ!!!バカ!!!!
酒を取り出し、ご褒美のヒカリノシズクを開ける。4月には3人とも初めての静岡旅行が待っている。
四重奏、QUARTETTO、いまのNEWSにぴったりだ。
増田担は今度こそ少しでも増田君に手を振れるだろうか、手越担はビブラートの綺麗な歌声を生で聴いて頭がパンクしないだろうか。
その頃には次の日コンクールの結果も出ているだろう。
今度はその静岡旅行が締め切りに間に合わすためのご褒美である。